見えてきた第4次エチレンプラント再編
見えてきた第4次エチレンプラント再編

見えてきた第4次エチレンプラント再編

 2024年5月に執筆した「2024石油化学再編に向けての動向整理」では、石油化学産業を取り巻く状況から国内のエチレンプラント再編についての各社の方向性をまとめた。1年が経過し、数社からエチレンプラント集約、停止動向が発表されている。ここでは、発表されエチレンプラント集約、停止動向から再編の概要をまとめる。

国内エチレンを取り巻く環境

中国での過剰生産能力

 国内のエチレン生産を取り巻く状況について確認をする。国内のエチレンは、2007年に7,739千トンの生産量をピークに減少傾向をたどっている。その一因となっているのが、中国でのエチレン設備の新設・増設による過剰生産だ。下記図は、中国でのエチレン生産能力と生産量のグラフである。

 中国では不動産不況に対して、政府は製造業などの産業振興の政策に力を入れてきた。その結果、2020年から2024年の間に少なくとも43社のエチレン製造プラントの新設・増設計画が進展し、2024年時点でのエチレン生産能力は5,174万トンに達した。一方、エチレン生産量は3,493万トンで、稼働率は70%を切っていることになる。このような状況のなか、中国のエチレンはアジアを中心にだぶついていると言われる。

国内エチレン設備稼働率

 中国でのエチレン生産設備の新設・増強は、日本のエチレン生産競争力を低下させてきた。アジアを中心にエチレンのみでなく、エチレンを原料として生産される化学製品の価格競争力がなくなり、日本のエチレン設備の稼働率は低下した。国内のエチレン生産能力は各社合計で640万トンであるのに対し、稼働率は2024年の平均で80%程度、直近の2025年3月には75%まで低下した。エチレン生産稼働率は90%が採算ラインと言われているので、多くのエチレン設備を保有している企業は収益性を確保できない状態とみられる。

これまでのエチレン生産再編

 エチレン生産設備の稼働率の低下は、各社設備の停止や集約など再編検討を促した。これについては2024年5月の記事で各社の方向性をまとめている。

 今回のエチレン設備再編検討は第4次の検討となる。過去3回、国内のエチレン設備再編の動きがあった。

 第1次は、1983年に特定産業構造改善臨時措置法(産構法)が制定されたことによる。日本は1979年の第二次石油危機を経て、原油価格の上昇と円高不況から、素材産業は構造的な不況に陥った。エチレンも過剰設備と見なされ、当時年間生産能力635万トンのエチレン設備の36%を廃棄・集約などの処理することになった。しかし、この時比較的小規模の設備は廃棄されたが、その後の産業発展により逆に生産設備の増強局面を形成していった。

 第2次は、2001年に三菱化学(元:三菱油化、現:三菱ケミカル)の四日市事業所のエチレン設備年産27万トンの停止によるものだ。当時、中東や台湾、シンガポールなどアジアでのエチレン設備の新増設があった。三菱化学のエチレン生産設備は1959年に建設され、1968年に増設を行い30年以上経て老朽化していて、輸出競争力がないと判断された。四日市コンビナートには、三菱化学のエチレン装置以外に、東ソーのエチレン設備が稼働していた、また三菱化学の鹿島コンビナートなどからのエチレン供給が見こめたことが設備停止決定の背景にあった。

 第3次は、2014年から2016年にかけて三菱化学の鹿島第一エチレン製造設備、住友化学の千葉工場のエチレン製造設備、旭化成の水島製造所でのエチレン製造装置の停止によるものだ。この時の要因は、国内需要の縮小と、中東・中国での供給能力拡大によるものとしている。

 現在進められているエチレン設備生産能力適正化の検討は第4次の再編となる。第3次エチレン設備再編検討が行われていた2012年当時の稼働率は85%程度であり、現在の稼働率よりも若干良かった。また、要因も国内需要の減少と中国での供給能力拡大とすると、第4次の再編とは言え、第3次再編からの状態が継続しているともいえるかもしれない。

各社の動向

 上図は2024年後半から2025年4月までに各社が発表したエチレン製造設備の停止、集約化動向だ。

千葉 三井化学、出光興産

 2024年10月9日、三井化学と出光興産は市原、千葉に両社が保有するエチレン設備の生産最適化検討について、FEEDへ移行したと発表した。検討方向は、2027年度に出光興産の千葉エチレン設備を停止し、市原の三井化学のエチレン設備に集約する。

西日本 旭化成、三井化学、三菱ケミカル

 旭化成、三井化学、三菱ケミカルは、2024年5月に「西日本におけるエチレン製造設備のカーボンニュートラル(CN)実現に向けた3社連携の検討」を開始した。2024年11月8日に進捗として、グリーン技術の実装・最適生産を目指し、3社が出資した共同事業体の設立を前提に、更に検討していくと発表した。現在、水島では三菱ケミカルと旭化成が共同でエチレン製造設備の操業を行っているが、ここに三菱化学(実質的には子会社の大坂石油化学)が入る形となるようだ。

川崎 ENEOS

 ENEOSは、2025年2月26日、川崎製油所のエチレン製造装置の一部について、2027年度末を目途として停止すると発表した。前提とするエチレン製造装置は、浮島南地区のもので、1970年に操業を開始している。
 なお、ENEOSは、川崎製油所でのエチレン製造装置の一部を停止するのに伴い、グループ会社である日本合成樹脂が製造している石油樹脂の製造停止の検討を進めているとしている。

千葉 コスモ、丸善石油、住友化学

 コスモエネルギーHD、丸善石油化学、住友化学は、2025年4月1日、2026年度を目途に丸善石油のエチレン製造装置を停止し、京葉エチレンに生産を集約すると発表した。京葉エチレンへの出資比率は、丸善石油が55%、住友化学45%であり、丸善石油としては京葉エチレンの設備より前に稼働を開始した自社プラントを停止する。

大分 レゾナック(クラサスケミカル)

 レゾナックは、2025年1月大分の石油化学事業についてパーシャル・スピンオフを実施し、クラサスケミカルを設立した。クラサスケミカルの福田社長が雑誌のインタビューを受けている。それによると、大分コンビナートのエチレンプラントは、他のエチレン製造設備よりも高い稼働率を維持しているようだ。また、福田社長は、早ければ2年後に上場し、レゾナックからの独立を目指すとしている。

その他の地域

 エチレンプラント集約動向の図を見るとわかる通り、集約検討が進んでいるのは、関東と関西のエチレンプラントが密集、または関係化学産業が連携している地域だ。

 上述したように、四日市では東ソーのエチレン製造装置のみであり、地域のエチレン需要も旺盛で国内最大のエチレンバイヤーになっていることから、エチレン製造装置(ナフサクラッカー)は保持の方針が打ち出されている。

 同様に、出光興産の徳山事業所のエチレン製造装置も稼働率は85%前後を維持しているようであり、クラサスケミカルも上記のように「高い稼働率」を維持している。

生産能力縮小目標に対して

 現在の国内エチレン生産能力は年間640万トン程度である。2024年の稼働率が約80%とすると、年間500万トン程度の生産能力が当面のエチレン生産縮小目標となる。

 各社が発表したエチレン製造装置の停止、集約動向をまとめると次の表のようになる。

 ENEOSの浮島南の設備は一部を停止としているため、約45万トンすべてが停止するわけではないかもしれない。また、西日本の大坂石油化学、三菱ケミカル旭化成エチレンについては、共同事業体での運用方向は示されたものの、最適化については検討中でありどの程度の生産能力を保持するのか現時点では未定だ。

 しかし、当面の国内エチレン生産能力縮小目標を約500万トンとすると、発表された設備停止、集約情報から凡そ目標の数字に当てはまることになり、第4次のエチレン製造装置プラントの再編の概要が見えたと言えるだろう。

 経済産業省やシンクタンクは、2050年のエチレンの国内需要を300万トンから400万トンと予測している。2030年に向けて当面の生産能力最適化は対応がされつつあるが、長期的にエチレン生産設備の停止、集約の動きは続いていく。

グリーン化でのエチレンプラントの方向性

 最後に各社が進めるエチレンプラントを含んだコンビナートのグリーン化について言及する。

 どの企業もカーボンニュートラル実現に向けて、CO2排出量削減のために技術開発を進めている。その方法は大きく分けて3つある。

  • 原料転換         :原料を化石燃料由来のナフサから、バイオマス由来やケミカルリサイクル由来のものに転換する。
  • 燃料転換         :燃料をメタンなど化石燃料由来から、クリーン水素やアンモニアなどに転換する。
  • CCUS         :エチレン製造装置から排出されたCO2をCCUSで、他の化学製品や地下貯留する。

原料転換

 公表や企業インタビュー記事によると、原料転換では三菱ケミカルや三井化学、出光興産、東ソーがバイオマス由来ナフサや廃プラスチックの分解油(ケミカルリサイクル)由来の原料への検討・開発を行っている。
 クラサスケミカルについては、ナフサ以外の原料をすでに20%使用済みとしているが、灯油、軽油、LPG、ブタンなどとしていてグリーン化ではなく、グリーン化については未詳だ。

燃料転換

 燃料転換については、三菱ケミカル、三井化学、東ソーがアンモニアの活用、ENEOSが水素の活用を検討・開発している。

CCUS

 各社種々のCCUを検討しているが、三菱ケミカルはCarbopathと命名し、CO2や廃プラをメタノールに変換する環境循環型メタノール構想を推進している。また、東ソーは、NEDOグリーンイノベーション基金事業として「CO2を原料とする機能性プラスチック材料の製造技術開発」を行っている。

 これらの検討・開発は、令和3年経済産業省が主催した「カーボンニュートラルコンビナート研究会」で、その意義や役割が検討された。現在は、各コンビナートで地方自治体などと連携した推進協議会や会議を通じて、具体的な計画や実行を図ってきている。

所感

 日本国内のエチレン製造装置の再編動向についてみてきた。2030年に向けて、各地域のエチレン製造装置の停止、集約による生産最適化の方向は見えたようだ。一方で、長期的には更なる集約最適化検討が必要となる模様だ。

 中国は、現在でも過剰とみられるエチレン製造装置の更なる新設・増設が予測されていて、日本のエチレン競争力はますます厳しくなっていくとみられる。エチレンは、多くの化学製品の原料としてきわめて重要である。三井化学の橋本社長は、2024年12月の雑誌のインタビューで次のように述べている。

 「国内でお客様、経済安全保障、投資効率、他製品とのシナジーを見ながら、何を最終的に残していくか・・・必要な上流の原料のキャパシティを決める。それによって競争力ある状態をつくることが必要」、「石油化学事業をレゾナック・ホールディングスのように・・・現状で切り出してしまうのは無責任」と述べている。

 この点については、各企業が協議をして決めていくだけでは各社の方針の違いにより、成り行きの縮小傾向になる可能性がある。中国のように、政府の関与による日本全体での構想や実行支援が求められる。

 エチレンの競争力ということでは、最終章で言及したように、エチレンプラントのグリーン化による差別化が検討・開発されている。この点でも、2024年の水素生産・消費量は中国が世界最大であり、水素関連の特許も日本を追い抜き首位になり、水素製造装置の優位性も圧倒的という現実に照らして、競争力の維持を目指していくべきだろう。

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