中堅自動車部品メーカーの中期経営計画 2024 -リケンNPR、TPR、エクセディ
中堅自動車部品メーカーの中期経営計画 2024 -リケンNPR、TPR、エクセディ

中堅自動車部品メーカーの中期経営計画 2024 -リケンNPR、TPR、エクセディ

 2024年に入っていくつかの自動車部品メーカーが中期経営計画を発表した。ここでは、電動化の進行でエンジン・トランスミッション部品が縮小していく事業環境の中、関連部品を製造しているリケンNPR、TPR、エクセディ3社が2024年に発表した中期経営計画(中計)について見ていく。各社とも縮小していく既存事業と成長を期待する新規事業という中計のフレームワークは共通する。

目次

リケンNPR
TPR
エクセディ
新規事業の目標設定と成長投資

リケンNPR

 リケンNPRは2023年10月、共に主力製品としてピストンリングを生産するリケンと日本ピストンリング(NPR)が設立した持株会社だ。2026年度での2社の完全事業統合に向けて、現在はリケンと日本ピストンリングがそれぞれの事業を続けている。

 2024年2月14日に発表された中期経営計画の方針は、「経営統合によるシナジー創出」と「事業ポートフォリオ改革」だ。2023年度の売上高が1,670億円(リケンと日本ピストンリングの単純合算)に対して、2026年度の売上目標は1,800億円とCAGR 2.5%の成長を見こむ。また、経常利益率は9%以上、ROEが8%以上としている。

 リケンNPRの場合、ピストンリングという同種の製品を生産している大手2社が統合したため、生産の合理化や間接コストの見直しなどを行いコスト競争力の強化が期待できる。計画では事業部門の製造コスト削減で年間14億円、管理部門の合理化で年間16億円、計年間30億円の経営統合によるシナジー効果を見込んでいる。

 事業ポートフォリオ改革では、ピストンリング事業や自動車・産業機械向け精密機械部品と配管機器製品を含むベース事業といった既存事業で、2023年度に対して2026年度でピストンリング事業はCAGR 1.3%、ベース事業は0.4%の成長を見込むが、新製品・新事業を合わせたネクストコア事業は2023年度58億円の売上実績に対して、2026年度は180億円と45.9%の成長を目論む。

 研究開発は従来ベースの120億円に戦略投資として30億円分増加し150億円としている。また、成長投資としてM&Aを含んで3カ年累計で400億円を予定する。

TPR

 TPRは、リケンNPRと同様に自動車エンジン向けピストンリングやシリンダライナなどを主力事業としている。一方、2012年4月にゴム・樹脂部品製造販売会社ファルテックを子会社化している。ファルテックの売上高規模は700億円であり、TPRの売上高1,900億円の4割弱を占める。TPRはこのような事業構成から、ピストンリングなどをパワートレイン分野、ファルテックのゴム・樹脂製品を含む新規事業分野をフロンティア分野として分類している。

 中期経営計画2026年度の売上高目標は2,100億円で、2023年度実績1,938億円に対してCAGR 2.7%。その他の2026年度の目標値は、経常利益が220億円(経常利益率11%)、純利益125億円、ROE 8%としている。

 事業戦略として、パワートレイン分野は「業界をリードするものづくりの実現」を、フロンティア分野は「成長分野に積極投資、新しい柱事業の育成」をスローガンとして掲げる。2023年度のパワートレイン分野とフロンティア分野の売上高比率が52:48に対し、2026年度で49:51、2030年度で33:67を計画。売上高に換算すると、2026年度のパワートレイン分野とフロンティア分野共に1,000億円超の売上高を目指すことになる。これは、パワートレイン分野のCAGR成長が0.7%であるのに対し、フロンティア分野のCAGR成長率を4.8%としていることになる。

 そのためにフロンティア分野には、フロンティア分野技術センターの設立やM&A、戦略的な出資を含む設備投資と成長投資を合わせて440億円を投じ、収益強化や事業化の立ち上げを急ぐ考えだ。

エクセディ

 2024年5月27日、アイシンは持分法適用関連会社エクセディの保有株式を売却し、資本関係を解消すると発表した。事業環境変化に対応した決定だが、発表には「エクセディも2024年4月に公表した中長期戦略において、事業への取り組み方法やビジネスモデル等を迅速かつ根本的に“変革”することを掲げ、(中略)中期的に目指すべき姿の実現に向けた取り組みを推進して」いるとコメントしている。

 エクセディは、自動車用マニュアルトランスミッション(MT)向けクラッチカバーやクラッチディスクを製造販売するMT事業、オートマチックトランスミッション(AT)用トルクコンバータなどのAT事業を主な事業としている。特に、AT事業は2023年度の売上高の65%を占める主要事業であるが、2024年4月22日、EV化の進展に伴い需要減少での収益性の低下が見込まれることから、AT事業での約322億円の減損損失を発表した。連結決算会計基準はIFRSのため、2023年度の決算として当初予測していた130億円営業利益計上は、155億円の営業損失となった。

 これらの状況を踏まえてエクセディは、2024年4月24日に中長期戦略を発表した。長期2030年度の目標値は、売上高が3,300億円で2023年度3,083億円に対してCAGR 1.0%、営業利益が減損損失計上による154億円の欠損から2030年度300億円の利益計上、ROE 8%、新製品売上高比率が30%としている。

 中期2026年度の目標値は掲載されていないが、中長期戦略に掲載されているグラフから読み取ると、売上高が2,900億円と2023年度に対してCAGR 2.0%のマイナス成長を想定している。特に中国でのAT事業の縮小の影響が大きいとみられるが、事業成長の観点から厳しい見立てだ。

 新事業の売上高目標も数値して掲載されていないが、グラフから読み取ると2026年度で100億円、2030年度で1,000億円程度の新規事業の売上高収益を見込んでいる。中長期戦略での新事業・新製品は、2輪/3輪BEV用駆動ユニットやドローン用推力システム、BEV用ワイドレンジドライブシステムなど、モータ・駆動システムとなっている。

 2026年度に向けた成長投資として、M&Aなど新規事業創出や新製品開発R&Dに300億円を計上している。

新規事業の目標設定と成長投資

 エンジン部品やATトランスミッション部品を製造しているリケンNPR、TPR、エクセディは、自動車のBEV化による主力事業の衰退という事業環境に直面して、新規事業の創出に注力していく考えだ。しかし、過去のからの新規事業創出の経緯やM&Aによる事業獲得経験から、目標値設定や新規成長分野設定に違いが見られる。

 リケンNPRは、リケンと日本ピストンリングが合併した。それぞれの会社が新規事業開発を展開してきた経緯があるため、ネクストコア事業には7つの事業・製品が掲げられている。2023年度の既存事業の売上高1,439億円に対して、ネクストコア事業の売上高は58億円(売上高比率3.4%)であり、中期での成長分野投資400億円で、売上高180億円(売上高比率10%)の新規事業を成長させることを目標としている。事業戦略では「事業ポートフォリオ改革」が掲げられている。ネクストコア事業を含んだ事業の集約も含まれるのかもしれない。

 TPRは、2012年にファルテックを子会社化したことで、パワートレイン分野以外に事業収益の大きな柱を持つことができた。ファルテック自体の売上高は700億円規模の横ばいで来ていて、シナジー効果などでの成長は見られないが、当時ファンド下にあったファルテックの株式57.3%を81億円で買収したことはTPRにとって大きな学びになったと考えられる。そのファルテックを含んだフロンティア分野の中期2026年度の売上高比率は51%で、金額換算にすると1,071億円となる。ファルテックの売上高分を差し引くと150億円程度となり、成長投資額440億円での目標設定はリケンNPRの新規事業とほぼ同等だ。リケンNPRとの違いはどのようになるのだろうか。

 エクセディは、中期的にみるとAT事業の縮小が想定されている中で、新規事業開発を同時に進めなければならない。リケンNPRやTPRと比べて新規分野の幅は狭い。中期での新規事業目標値は100億円程度と設定されているとみられ、上記2社と比べ若干少ないレベルだ。成長投資額も300億円と2社と比べ100億円程度少なくなっている。エクセディはアイシンの資本下にあったためか、新規事業開発が遅れている印象があるが、アイシンとの資本関係解消発表前後から、4月には本社ビルにイノベーション創出拠点を設置、産業用ドローン自律機器開発のイームズロボテックスの株式を取得、英国の電動パワートレイン設計・開発のサイエッタの資産・知財を取得、5月にはインドの電動モビリティを開発しているオメガ社に出資など、新規事業・製品分野への投資発表が相次いでいる。

 各社とも事業環境が急速に変化していく中、どのように新規事業を展開して成長を確保していくのか注目をしていきたい。

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