日本の部品メーカーによる電動二輪車向け駆動システムへの参入状況
日本の部品メーカーによる電動二輪車向け駆動システムへの参入状況

日本の部品メーカーによる電動二輪車向け駆動システムへの参入状況

 日本の自動車・二輪車部品メーカーによる電動二輪・三輪車向けモータやギアユニットなど駆動システムへの参入の発表が相次いでいる。各社の動向をまとめる。

電動二輪車概況
 中国
 インド
 東南アジア
  インドネシア
  ベトナム
  タイ
部品メーカーの電動二輪駆動システムへの参入
 ニデック(旧、日本電産)
 武蔵精密工業
 エクセディ
 ミツバ
 エフ・シー・シー
二輪大手ホンダの宣言
アジアでの電動二輪市場で

電動二輪車概況

 二輪車製造販売大手ヤマハ発動機は、2021年の世界二輪車需要は4,800万台だったと発表している。二輪車は、特にアジアでは、庶民の足として需要が大きいが、地球温暖化対策、都市部の渋滞緩和や排気ガスによる大気汚染対策として、各国二輪車の電動化政策を進めてきている。

 

中国

 電動二輪車の販売台数がもっとも多いのは中国で、中国摩杔協会(CCCM)発表の統計によると2021年に販売された電動二輪車は394万台、2022年には763万台と倍増している。中国では都市部にエンジン二輪車の乗り入れが禁止されているため、代替えとしての電動二輪車が普及した経緯がある。

 中国の電動二輪車は、最高速度が25kph以下の電動自転車(EB)、25khpから50kphの電動モペット(EM)、50kph以上の電動車(EV)に区分されているが、CCCMの統計には電動自転車が含まれていない。EBの最高速度は25kphに制限されているが、実際には60kph以上のスピードが出るものもあるようだ。

インド

 インドは都市部の自動車、二輪車の排ガスによる大気汚染がひどいこともあり、電動車普及政策を行ってきた。2015年から電動車普及加速・生産促進政策(FAME)を2019年まで行ったが電動車の普及が十分でなかったため、2019年からはFAMEの第2フェーズとして、電動車、特に電動二輪車に対する購入補助金政策を実施している。また、電動二輪車に対しては物品税(GST)が5%と低い税率に優遇する措置が取られていて、電動二輪車購入に関して手厚い支援がなされている。

 生産に関しては、FAMEの補助金対象はインド国内で生産した電動化部品を使用した電動車への限定していることや、生産連動型優遇(PLI)スキームにより電動車や電動車両向け部品の国内製造に関してインセンティブを給付する政策を行っている。ある自動車調査会社のデータによると2022年春時点でインドには64社の電動二輪車メーカーが乱立している状況だという。

 以上のような普及政策もあって、インドでの電動二輪・三輪車の販売台数は急増していて、インド道路交通省の統計によると、2021年には二輪・三輪車の電動車両販売は合わせて31万台であったが、2022年には97万台と3倍に増えている。

東南アジア

 東南アジア諸国も電動車普及に向けた政策・施策の投入や企業の動向から、電動二輪車の導入状況に差はあるものの、徐々に二輪車の電動化比率が高まってきている。

インドネシア

 インドネシアは、アジアのEV生産ハブ化を目指し、2025年に電動二輪車200万台、2050年には1,300万台の生産を目標に掲げている。2019年には自動車や二輪車を含む車両の電動化を促進する政策を導入、その後、政策の補強をしていて、2023年には電動車両購入やエンジン二輪車の電動化への改造に対して補助金を支給する施策が実施された。

 大統領令により政府官公庁などの公用車を電動化するという後押しもあり、新興スタートアップや中国電動二輪メーカーが市場に参入している。また、国営エネルギー会社が電動インフラの普及を促進していることもあり、インドネシア電動バイク産業協会によると国内の電動バイクの保有台数は2019年から2023年5月までに累計で48,000台に達したととしている。

ベトナム

 ベトナムは中国と国境を接していることから、中国からの影響で免許不要で乗れる電動自転車が普及している。この電動自転車の販売台数の把握はできないが、電動二輪車は中国メーカーのほかに現地コングロマリット企業のビングループが電動二輪スクーター事業に参入していることもあり、電動二輪車の販売台数は年間6万台超を超える。

 ベトナム政府は2022年に電動二輪車の車両価格5%を購入補助する施策を打ち出している。2022年7月にはカーボンニュートラルに向けた行程表を発表し、四輪・二輪車とも2040年までには国内生産と輸入を禁止、2050年には走行車両もゼロにする目標を掲げている。一方で、エンジン二輪車、電動自転車などによる都市部の渋滞が問題になっていて、2025年以降都市部への二輪車の乗り入れ規制が強化される可能性もあり、電動二輪車の普及に関して懸念事項となる。

タイ

 タイは、2022年8月に電動二輪車の購入に対する補助金政策が閣議承認され、電動二輪車購入に最大6.4万円の補助金が支給される。また、バッテリーや電動二輪車のタイでの現地生産に対して投資優遇策が導入されている。しかし、電動自動車(BEV)への関心が高いのに比べ、2022年5月から2023年4月までに新規登録された電動二輪車の台数は14,200台と二輪車全体の1%弱にとどまっている。

部品メーカーの電動二輪駆動システムへの参入

 日本の部品メーカーとしてニデックや武蔵精密工業、エクセディなどが電動二輪向け駆動システムへの参入を発表している。

ニデック(旧、日本電産)

 2022年度の売上高が2兆円を超え、2025年には4兆円、2030年には10兆円の売上高を目指す精密小型モータ会社ニデック(旧、日本電産)は、長年事業の成長をけん引してきたHDD用モータの大幅な成長が見込めない中、小型EV向けモータ、電動二輪車向けモータなどモビリティ分野に経営資源をシフトしている。

 2021年12月27日、日本電産は中国の電動二輪車大手雅迪集団控股有限公司(ヤディヤ)が2021年10月に発売した電動二輪車「換電獣 01」に、日本電産のインホイールモータが採用されたと発表した。開発は世界トップシェアを誇るHDD用スピンドルモータを手がける精密小型モータ事業本部が担当した。

 2022年には電動二輪と小型EVのモータを担当する「車載小型モータ事業部」を立ち上げ、2022年5月にはインドでの電動バイク向けモータ事業への参入のため、インド・ラジャスタン州ニムラナにある工場敷地内に100億円を投じて新棟を建設するとの報道があった。既存工場棟ですでに電動二輪車用インホイールモータを製造しており、2023年7月に竣工される新棟が完成後は2025年までに電動二輪車用モータの生産能力を年産100万台余りまで拡大させ、インド電動二輪車市場の50%のシェア獲得を目指している。

 

武蔵精密工業

 ホンダ系鍛造部品大手武蔵精密工業は、近年社内ベンチャーやスタートアップへの出資、提携など、本業以外の事業創出の動きが激しい。2021年1月27日JSR株式会社より子会社でリチウムイオンキャパシタ(LIC)の開発・製造販売を行うJMエナジーを買収した。同年3月には展示会で、LICを含めた電動二輪車用ギアボックス一体型モータユニットの開発品を展示している。

 電動駆動ユニットは電動車両の最高出力、速度、タイヤ径などによって、モータ回転数の減速比の調整が必要となり、具体的には減速ギアの変更によって行なわれていて、仕様に応じて複数のギアボックスケースを用意する必要がある。武蔵精密の電動二輪用ギアボックスは、モータからの入力ギア、中間ギア、出力ギアの3つのギアの組み合わせ調整によって、ひとつのギアボックスケースで賄うことができる。

 2023年に入ってからは、海外の企業との間で武蔵精密製電動二輪駆動ユニットを使用した電動二輪車の開発、製造、販売の協業の発表が相次いでいる。2023年1月にはケニアのARC Ride社と、3月にはタイのSTROM社、5月にはベトナムのSon Ha Group、6月にはインドのBNC社と武蔵精密製電動二輪駆動ユニットを使用した電動二輪車の開発、製造の発表があった。武蔵精密は従来から社内ベンチャーやスタートアップアクセラレーションプログラムを開催していて、自社もスタートアップの持つ瞬発力・機敏力をいかんなく発揮しているようだ。

エクセディ

 2023年6月23日、アイシン系でクラッチ、トルクコンバータ大手のエクセディは、インドの子会社を通じて、インドで電動二輪・三輪用モータおよびコントローラーを開発しているスタートアップSTARYA MOBILITY社に出資を行ったと発表した。エクセディが開発している変速ユニットとSTARYA社のモータ/コントローラーを組合わせた電動ユニットで、インドやアセアン市場への展開を図るとしている。

 エクセディは子会社ダイナックスともに2010年頃より電動車両用駆動モータの開発を行っている。10年以上を費やしてモータの技術開発の習熟度を上げてきたが、新興国向けには現地のモータを活用するようだ。

ミツバ

 四輪ワイパーシステムや二輪スターターモータを手がける独立系輸送機器部品メーカーミツバが、2023年7月13日、インドで電動二輪車向け駆動システム事業に参入するという報道がされた。ミツバは二輪用スターターモータ大手でモータ構造や材料の調達については詳しく、2010年代後半から展示会にでも電動二輪車向け駆動システムの展示を行ってきた。

 ミツバのHPにはEV駆動システムとして小型二輪EV向けモータMA01とコントローラーRM01のカタログが提示されている。それによると、モータは、エンジン排気量30ccに相当する最高出力2kW、同100ccに相当する6kW、同125ccに相当する8kWの製品ラインナップが用意されている。早ければ年内にもインドで試作ラインを設置するとしている。

エフ・シー・シー

 ホンダ系二輪車向けクラッチ大手のエフ・シー・シーも二輪車向け電動駆動ユニットの開発を行っている。新興国で電動二輪車や電動三輪車の製造・販売を行っているTerra Motorsは、2021年7月15日にエフ・シー・シーとインドにおける二輪・三輪車のEV化拡大に向け、共同開発を含む業務締結契約を締結したと発表した。Terra Motorsはインド電動三輪車市場で2022年に7,457台を販売している。

二輪大手ホンダの宣言

 2022年9月13日、ホンダは二輪事業の取り組みとして、カーボンニュートラル実現を目指し、今後の環境戦略の主軸として二輪車の電動化を加速させ、2025年までにグローバルで電動二輪車を10モデル以上投入し、2026年には100万台、2030年にはホンダの二輪車総販売台数の約15%に当たる年間350万台の電動二輪車の販売を目指すと宣言した。

 ホンダは1994年にCUV-ES、2009年にEV-neo、2018年にPCX-ELECTRICと電動二輪車両を断続的に開発、販売・リースをおこなってきた。2018年には、睿能創意股份有限公司(ゴゴロ)が、バッテリーパック交換型電動二輪車を発売し台湾市場を席巻したことを受け、Honda Mobile Power Packという交換型バッテリーバックを開発、自社の電動二輪車への搭載を進めた。

 日本郵便は、2022年1月から郵便物の配達用としてホンダの電動二輪車BENLY e:を使用している。この実績を経て、2023年5月19日ホンダは原付一種に相当する電動二輪パーソナルコミューターEM1 e:を2023年8月24日より全国で発売すると発表した。日本を含めて、二輪車大手の電動化が加速する。

アジアでの電動二輪市場で

 インドを中心に、アジアでのエンジン二輪車から電動二輪車へ移行する機運が加速している。アジアの二輪車市場はホンダを中心に、これまで日本の二輪車大手の寡占市場となってきた。そのアジア市場で電動化が進むことは、電動二輪が普及している中国や台湾の企業に牙城を崩される可能性があり、大きな事業リスクだ。

 電動二輪車は開発・生産のハードルがエンジン二輪車に比べ低く、多くの新興企業が勃興している。インドでは46社以上、インドネシアでも30社以上のスタートアップを含む企業が電動二輪車・三輪車の製造・販売に乗り出している。こういった状況の中で、日系の部品メーカーは従来の系列や製品領域の範囲を超えて、アジア地域への電動駆動ユニットの生産販売や、スタートアップとの協業で活路を見いだそうとしている。

 かつて戦後勃興期、日本には50社以上の二輪車製造業者がいたといわれている。市場の黎明期には多くの新興企業が参入するが、最終的には数社に淘汰される。現在のアジア市場は電動二輪車の黎明期で、新興する多くの電動二輪車メーカーに部品メーカーが協力を申し出て、新規開発の電動駆動ユニットの参入をしている状態だ。今後、市場成長と共に競争が厳しくなり、淘汰される電動二輪車企業も出てくる。その時、部品メーカーはどのような対応をとるのだろうか。各社の対応を見守りたい。

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