自動車部品メーカーのM&A動向 デンソー
自動車部品メーカーのM&A動向 デンソー

自動車部品メーカーのM&A動向 デンソー

 2024年に入ってからも保有するトヨタグループ関連株式の売却や半導体製造拠点への出資など、自社開発以外の手段で事業の方向転換や拡大を探る動きが常態化しているデンソー。これまでのM&A動向についてまとめる。

目次

2030年長期方針とM&A
研究開発費、設備投資額、保有株式額
M&A
 出資
 買収
 吸収合併
 譲渡
M&A活用での事業変革

2030年長期方針とM&A

 2017年10月31日、デンソーは2030年長期方針および2025年長期構想を発表した。長期構想では、2025年度の電動化、自動運転の実現に伴うモビリティの新領域で成長することで、売上収益7兆円、営業利益率10%を目標とし、「電動化、自動運転、コネクティッド、非自動車事業(FA/農業)」の4分野を注力分野として取り組むとした。

 発表の翌日となる2017年11月1日、同年の4月に発表していた富士通の子会社でカーエレクトロニクスメーカーの富士通テンの買収を完了させ、デンソーテンと商号を変更した。2025年長期構想に沿った動きとして象徴的なM&Aとなった。

 その後、デンソーは毎年のように戦略の修正を行いながら、事業ポートフォリオの変革に取り組んでいる。2022年12月15日に開催されたDENSO DIALOG DAY 2022では、財務レバレッジの活用として、「1兆円以上の調達余力を活かし、M&A等の成長投資を実行」と明言し、積極的にM&Aに取り組む姿勢を示している。

研究開発費、設備投資額、保有株式額

 デンソーの事業拡大の手法は、かつては自社開発が主であったものが、出資や買収、吸収合併などM&Aを併用したものに変ってきている。

 2010年代前半は研究開発費が保有株式額に対して大きかったが、2014年以降、特に2017年および2020年以降は研究開発費を上回る株式の保有額となっている。

M&A

 M&Aとは合併(Merger)と買収(Acquisition)の略で、2社以上の企業間で、会社や事業を資本を使用して売買することだ。手法はいろいろあるが、ここでは買収、吸収合併、譲渡の分類で近年のデンソーのM&A状況を見ていく。

出資

 スタートアップなどへの小額出資数は、M&Aの定義からは外れるが、M&Aの候補先としてとらえることもできる。デンソーが発表したスタートアップなどへの少額出資は、2018年および2019年に急増した。2030年長期方針および2025年長期構想に対応した動向だ。この中には、最終的に買収に展開したものもある。

 デンソーは毎年、取得した株式の銘柄数と減少した株式の銘柄数を発表しているが、それによると、2019年度取得した非上場株式銘柄数は7に対し、減少した同銘柄数は4、2020年度は取得3、減少7,2021年度取得2、減少5と、2018年、2019年に出資したスタートアップから出資を引き揚げたものもあるとみられる。

買収

 2017年以降の主な買収案件は次の通りだ。2017年にカーエレクトロニクスの富士通テン(現、デンソーテン)を205億円で買収。2018年に新事業領域のファクトリーオートメーション(FA)で東北パイオニアEG(現、デンソーFA山形)を109億円で買収。2020年にはトヨタ自動車の電子部品を生産する広瀬工場を1,052億円で譲受。2021年に自動車用計器、モータ部品を生産するジェコーを55億円の株式交換で取得。2023年には新事業領域の農業分野として、出資を行っていたオランダの施設園芸セルトングループを207億円で買収した。戦略に沿って、エレクトロニクス、電動化、新事業分野のFA、農業でM&Aを活用した形だ。

 2017年以降、デンソーが発表しているM&Aによる企業統合での取得対価の合計金額は1,700億円あまりになり、のれんは250億円弱となる。ジェコーのように負ののれんが発生している企業買収もあるが、他はのれんを計上していて2017年以降に積極的にM&Aを活用し始めたのが分かる。

吸収合併

 ソフトウェアや半導体開発の強化のために、子会社の吸収合併も行っている。2020年にはソフトウェア開発のデンソーITソリューションズを、2024年1月1日は半導体IP開発のエヌエスアイテクスを吸収合併した。現在も、車載用ベーシックソフトウェア開発のオーパスを完全子会社化した後、2024年7月1日付で吸収合併を行う予定である。

譲渡

 M&Aの手法を使って、成長分野を強化する一方、非成長分野である内燃機関関係の事業については譲渡を進めている。フューエルポンプは愛三工業に、中国のⅢ型オルタネーター事業は成都華川電装に譲渡した。スパークプラグおよび排気センサーなどのセラミック製品は日本特殊陶業への事業譲渡の検討を開始している。

M&A活用での事業変革

 M&Aは「時間を買う戦略」といわれる。自社でオーガニックに技術開発やマーケッティングを始めていたのでは数十年かかる事業開発を、資本を武器に一気に手に入れ、ポートフォリオを入れ替えて、事業変革を成し遂げることができる。

 M&Aを実行するためには、デンソーのように長期ビジョンを共有し、戦略的に投資分野を定義することが必要だ。また、少額出資で対象先の情報収集を行うことはM&A対象を選定する際にも有効だ。

 M&Aには資本が必要だ。本稿で取り上げた買収企業の取得対価は、55億円から1,050億円で、資本がなければ事業ポートフォリオを変えるほどのM&A効果を発揮することができない。今後もデンソーはM&Aを含めて事業ポートフォリオの変革に取り組んでいくと考えられ、その動向に注目したい。

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