DAC動向 日本での小型DACの探る動き
DAC動向 日本での小型DACの探る動き

DAC動向 日本での小型DACの探る動き

 2024年1月26日、経済産業省はネガティブエミッション市場創出に向けた検討会として「DACワーキンググループ(WG)」を創設し第1回の会議を開催した。DACは海外での大型プロジェクトが進み、日本は取り残されているように見えることから、日本政府の焦りも感じられる。内閣府のムーンショット型研究開発事業でもいつくかのDACプロジェクトが推進されている。ここでは、DACの動向として、建物内などのCO2を捕獲する小型分散型DACについての動向についてまとめる。

目次

 DAC Direct Air Captureとは、「大気中の二酸化炭素(CO2)を分離して、回収することをさす。2050年カーボンニュートラルを実現するためには、水素を中心としたエネルギー源への構造変更だけでは十分ではない。CO2を何らかの方法で空気中から取り除く方法が必要となる。これを総称してネガティブエミッション技術(Negative Emission Technologies: NETs)と呼ぶが、DACはNETsを代表する方法だ。

 CO2の分離回収技術には様々な方法が提案されている。現在商用運転されている火力発電所や化学工場などの排ガスに含まれる高濃度(数%から十数%)のCO2を分離回収し、地下貯留など行うシステムでは、主にアミンなどを使用した化学吸収、化学吸着、物理吸着の技術が使用されている。

 DACのCO2分離回収技術もアミンなどの吸着物質を使用した方法が使用されるが、排ガス中の高濃度CO2と違い、大気中のCO2濃度は400ppmであり、希薄なCO2からCO2だけを分離回収するには課題が多く、いくつの方法を組合わせた方法を含む様々な方法が提案されている。

 DACで分離回収されたCO2はNETsに沿う形で処理されなければならない。処理方法は、地下に貯留するCCS(Carbon Capture Storage)、または合成燃料などへ変換して有効利用するCCU(Carbon Capture Utilization)となる。

 環境省によると、日本の2021年度の温室効果ガスの排出・吸収量はCO2換算で11億2,200万トン。日本CCS調査株式会社の資料では、これまでの貯留層賦存量調査で、日本のCO2貯留可能量は約1,400億トンとなっていて、年間CO2排出量の約100年分に当たるとしている。

 経済産業省は2023年6月、JOGMECが先進的CCS事業7案件を選定したと発表した。2030年までにCO2の年間貯留量の約1,300万トンの確保を目指すとしている。7案件を見てみると、日本国内や海域への貯留調査・実証事業もあるが、2案件はマレーシアや大洋州への輸送・貯留となっている。

 100年分しか貯留できない日本の領土、また、可能性はあっても大規模なDAC施設を建設するための平地を確保するのは実質的に難しいと考えると、回収CO2の有効利用CCUについての検討が必要となってくる。利用方法は、ドライアイスとし工業用に使用したり、植物工場での植物成長促進のために使用したりする直接利用や、CO2を合成燃料や化成品に転換する方法、コンクリート材料として炭酸カルシウムに変換して使用する方法などが挙げられる。

 世界ではDACに関連した大型プロジェクトが進行中であり、先行するのはスイスに拠点を置くClimeworksとカナダに拠点があるCarbon Engineering(2023.8月 米国石油会社Occidental社が1PointFiveを通じて買収した)だ。

  表に示すように、世界では年間100万トンを処理する大型のDACプロジェクトが進行している。

 

 2050年にカーボンニュートラルを実現するためには、世界で年間20から100億トンのCO2の除去が必要といわれている。上記のように世界ではスタートアップが関係した大型DACのプロジェクトが実行されていて、日本政府もネガティブエミッション(NETs)市場創出に向けた取り組みとして、2024年1月26日にDACワーキンググループを設置した。国内外のDACに関する動向調査やDAC市場創出に向けた今後の取組方針を検討していく予定だ。

 DACを検討するにあたって大きく2つの課題があると考えられる。

  ひとつはDACで分離回収したCO2の処理方法だ。大規模にDACを行うにしても上述したように日本の領域でCO2を貯留(CCS)できる地域は限られる。CO2の利用についても合成燃料製造技術などを含めて改良の余地がある。回収したCO2をどのように処理するかはDACを実施する際に設計されなければならない要素だ。また、それによって設置場所も変わってくる。

 もうひとつが、DACのコストだ。科学技術振興機構(JST)低炭素戦略センターは、これまで既存の方法を参考にDACのコストを試算している。それによると、火力発電所や化学工場からの排ガスからアミン吸収でCO2を捕集した場合のコストはCO2 1kgあたり4.1円に対して、大気中からCO2を補修するとCarbon Engineeringが採用しているKOHによる化学吸収法で35.4円、Climeworksのカーボンナノファイバーにアミンを固着した固体吸着剤法では117円となっている。排ガス中の高濃度CO2からCO2を補修する場合に比べて、約9から29倍コストがかかる結果となっている。

 仮に2021年度の日本のCO2排出量11億2,200万トンを、化学吸収法35.4円/kg-CO2でDAC捕集した場合、年間40兆円のコストがかかることになる。日本の国家予算の3分の1を使ってしまう計算だ。

 高効率にCO2を分離回収するDACの研究開発は、内閣府のムーンショット型研究開発の中の「2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現」という目標のプロジェクトとして2020年より5案件が採択されている。上記がその概要である。

 各研究者の技術的アプローチは違うが、それと同時にDACを行う対象をどこにするかということでも考え方の違いがある。

  名古屋大学の則永教授や金沢大学の児玉教授は化学工学的なスケールメリットがなければ、高効率・低コストDACは難しいとみている。

 一方、九州大学の藤川教授や東京大学の杉山教授は、ビルや家庭に取り付ける小型分散型のシステムを想定している。地下貯留や大規模DAC施設を建設する場所が限定される日本では、CCUを想定した場合輸送コストまで考慮すると必要なところに必要なだけ導入するほうが合理的という考えだ。

 日本の、建築物における衛生的環境の確保に関する法律 第四条には、「特定建築物の所有者、占有者その他の者で当該特定建築物の維持管理について権原を有するものは、政令で定める基準(建築物環境衛生管理基準)に従つて当該特定建築物の維持管理をしなければならない。」とあり、建築物環境衛生管理基準での二酸化炭素の含有率は100万分の1,000以下(1,000ppm以下)と定められている。

 換気の悪い事務所で長時間事務業務をしていて気分が悪くなった経験が筆者はある。屋内の二酸化炭素濃度基準である1,000ppmでは人体への影響として「気分が悪くなる人もいる」としている。

 従って、ビルや事務所では温調を含めた換気空調システムによって二酸化炭素濃度を下げることがおこなわれている。ここにDACを組込むことは検討に値するだろう。

 ここからは、日本での小型分散型DACを狙う研究開発動向を見ていく。

 九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所副所長 藤川茂紀教授は、内閣府ムーンショット研究開発で「“ビヨンド・ゼロ”社会実現に向けたCO2循環システムの研究開発」として、ナノ分離膜を利用したCO2回収システム、および回収CO2を電気・熱化学的にメタンなどを生成するユニットを開発している。

 2023年度までの成果では、世界トップレベルの性能を持つCO2分離ナノ膜(m-DAC)を開発し、CO2混合ガスからCO、CH4、C2H4などを生成する(DAC-U)という2022年度目標を達成している。

 2023年3月九州大学は、双日、九州電力と、m-DACとDAC-Uの用途を共同開発・検証するための覚書を締結した。さらに、5月にはm-DACの製品実用化と社会実装を目指して、双日、九州大学、材料スタートアップのナノメンブレンが出資したCarbon Xtract社を設立した。ビルや集合住宅、戸建て住宅など小型分散型でのCO2回収ユニットと変換ユニットでCH4を生成し、燃料としての利用を想定する。

 東京大学先端科学技術研究センター教授 杉山正和氏がプロジェクトリーダーを務めるムーンショット研究開発プロジェクト「電気化学プロセスを主体とする革新的CO2大量資源化システムの開発」では、大気中のCO2を固体吸着および電気化学的方法で回収・富化し、電気化学プロセスでC2H4などの化学物質を生成するシステムを研究開発している。

 プロジェクトは各ユニット担当が分かれていて、固体吸着法により大気中のCO2を0.4%以上に濃縮する部分を清水建設が担当、濃縮されたCO2をさらに電気化学的方法で4%以上に富化する工程を大阪大学が担当している。回収されたCO2は電解還元でエチレン等に変換するが、この部分は大阪大学や理化学研究所と共にUBE、古川電工などが協力して開発を行っている。

 2022年度までの成果では、回収したCO2の富化と高効率電解還元でのエチレン製造に成功している。一方で物理吸着によるCO2分離(DAC)については成果が不十分として研究開発を中止して他のプロジェクトとの連携を模索することなった。プロジェクトは小型分散型のシステムを想定していて、2022年の成果でもビルに実装可能なシステム概念を確立したとしている。

 このプロジェクトには多くの研究機関や企業が参画しているが、ビルでの使用を想定した場合、清水建設が参画する意味は大きい。清水建設は過去に西部技研と共同で、ビル内に導入する外気からCO2を除去する「CO2除去空調システム」を開発している。

 デンソーは、電圧の切り替えでCO2を回収する電解式CO2回収技術を開発している。化学吸収、化学・物理吸着などのCO2分離回収技術は回収時に温度や圧力などのエネルギーが必要で、装置も大型化してしまう。

 そこで、デンソーはCO2を吸収しやすい導電性材料電極セルを積層化し、電極に電流を流すことで、電子のクーロン力でCO2を吸着させる。電圧を切り替えることでCO2を脱離させることができる。電流は常時流れないので少ないエネルギーでCO2の吸脱着が可能となる。

 2022年4月、このCO2分離回収技術はNEDO グリーンイノベーション基金事業 研究開発内容2:工場排ガス等からの中小規模CO2分離回収技術開発・実証として、「低濃度・分散排出源CO2の分離回収技術開発」テーマで補助事業として採択されている。技術開発目標としては、5%濃度のCO2回収として1トン当たりのコスト2,000円台(kg換算で2円台)を目指すというものだ。先に見てきたように、DACのコストは35円から117円と試算されているのと比べて、低コスト目標といえる。

 2023年6月には、デンソーと大成建設は共同で、デンソーのCO2開発システムを用いて、大成建設技術センター内の「人と空間のラボ(ZEB実験棟)」において、CO2の回収、利活用の共同技術検証を開始すると発表した。会議室使用時の排気からCO2を回収し、CO2濃度の低い空気を再度会議室に吸気する技術検証や、回収したCO2を環境配慮型コンクリートに固定化する実験などを行うとしている。

 川崎重工は2020年9月、石炭火力発電所でのCO2分離回収システムの実証試験を開始したと発表した。地球環境産業技術研究機構(RITE)と関西電力の協力のもと、関西電力舞鶴発電所内に、RITEが開発した固体吸着剤と川崎重工が開発した移動層CO2吸脱着システムKCC(Kawasaki CO2 Capture)によるパイロットプラントを建設し、2024年度にかけて試験を行うというものだ。

 大型施設での排ガスからのCO2分離・回収について実証を進めているが、川崎重工はもともと潜水艦や航空機など閉鎖空間でのCO2除去の取り組みを行ってきた。2021年川崎重工明石工場内にベンチスケールとなる1日あたり5トンのCO2を回収する試験装置を設置し、1,000時間の連続運転試験を行っている。

 2021年12月のグループビジョン2030新着報告会では、DACによるCO2の回収対象を公園、ビル、タワーマンションなどとして、独自の固体吸収材の特徴を活かしたラボ試験を進め、2025年頃の実証を計画するとしている。また、2050年には1トン当たりのCO2回収コストを2,000円程度まで下げることを目指すとしている。

 DACではないが、川崎重工は膜式のCO2除去装置SEPERNAを開発していて、2020年三菱地所が開発していたTOKYO TORCH常盤橋タワーに設備を設置して実証試験を行っている。このようなビル運営事業者との協働が小型DACの実証でも想定される。

 二酸化炭素分離回収技術DACは、2050年カーボンニュートラルのためのNETs技術として欠くことができないが、現時点ではいろいろな課題がある。大型設備設置場所や地下貯留の課題を考えると、小型分散型の可能性が出てくる。

 大型DACを実現するためには、吸収材や吸着材の開発を基に、大型設備のシステム設計、建設する能力が必要であり、重化学工業会社やエンジニアリング会社の協力が必要だ。同様に小型分散型DACをビルなど屋内大気環境からのCO2を分離回収するシステムを構築するためには、ゼネコンや空調換気システムを取り扱う会社の協力が必要になる。また、総合建設会社との協力は回収CO2の有効利用のひとつとしてコンクリートへの固定化の可能性も考えられる。

 コスト課題では、川崎重工やデンソーが打ち出しているように、CO2 1kgあたり2円というのがマイルストーンになるのかもしれない。ここに紹介しなかったほかにも小型DACを目指す研究開発や商品がある。大気中の400ppmという希薄なCO2を分離回収するという難しい技術であるが、研究機関や企業が開発に拍車をかけている分野には間違いない。

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